スポーツチャンバラ 田邊哲人会長のインタビュー
インタビュー記事No.2
「基本動作」について

田邊哲人会長

今回は「基本動作」についてお伺いします。
今年は初の基本動作チャンピオンが決定し、来年より団体戦も行われます。


今までは小学生の部や中学生の部など各カテゴリーの中で、部門優勝として基本動作チャンピオンはありました。それは基本動作を広めるための啓蒙活動として、また例えば打突競技に入る前の「準備運動」とい言うような形でも採用してきました。その結果、ようやく地方や海外でも基本動作をオフィシャル競技として成立させ、いよいよ基本動作グランドチャンピオンが生まれた訳です。




基本動作とはなんでしょう?


基本動作とは、精神力の増強、身体の健康増進、協調性の養成、号令に反応する俊敏性、集中力。そして身を守る護身力を得る最短手段です。基本動作だけでも十分にそれらを養成できます。




具体的にどのように修練したらよろしいのでしょう?


モノを学ぶ糸口には、4つの考え方があります。「意」「模」「似」「写」です。
「意」とは基本動作が内包している " 芯 " が意図するところを理解することです。そこから始まります。
「模」とは模写すること。
「似」とは似ている事。「似て非なること」もあります。
「写」はとにかく忠実に写すこと。
「模」「似」「写」も " 芯 " が無くても良いわけです。
初歩の段階では「模」から始まります。初心者は口で説明されるより、見取り稽古をして、「模」から入れば良い。その次に「写」です。「写」は更に細部にわたって忠実に写す事です。そしてそこに「意」を注入すれば良い。「意」が入るか否かでは、「術」でとどまるか「道」に入るか 、精神を「道」として高めるのか否か、という大きな違いがあります。「意」が入ると全体像を理解し、全体が見えてくるので技が大きくなります。「意」が無いとみんなの心を打つ演武にはなりません。




基本動作とは " 形 " だけではないのですね。他には?


今年の世界大会で一般の部基本動作で優勝したロシアのYan Poedinkov選手、2位のウクライナの Vlad Petrovsky選手が大会前に私の所にわざわざ見て貰いに来ました。彼らのレベルは非常に高く、実際に直すところは少ししかないわけです。あとは「OKOK」とアドバイスしますね。それで彼らは確信が持てるわけです。何事にも自信がもの凄く大切です。基本動作でも打突競技でもメンタル、精神力の勝負ですから。その後に技術です。




本当に海外選手は迫力・気迫が強く感じられました。


私は今年、第2回ヨーロッパ大会でモスクワに行きましたが、ロシア人は元々、凄いモノを持っていると感じましたね。精神力、メンタル面では海外勢の方が上じゃないかな。
   昨今の日本人は、メンタルが弱いことは基本動作の結果を見ればわかります。今年の世界大会では、一般の部基本動作で日本の女性、田渕美也子選手がただ1人、3位でした。また、全体総合優勝(基本動作グランドチャンピオン)は野村五月選手(高知県 中学生女子)。この選手の良いところは、全体に力が抜けていました。成人の部優勝者のロシアのYan Poedinkov選手と決定戦を行ったのですが、日本とロシアを抜いたフランス・アメリカ・台湾・イタリア・シンガポールの審判員でした。小差で野村選手が第1回目の記念すべき基本動作グランドチャンピオンになりました。これは快挙ですね。本当に誇って良い結果だと思います。日本男子は気迫が欠けています。もう少し精神力の集中と充実を展示できないと勝てませんね。

   決勝戦では選手が5人の審判を前にして並ぶわけでしょ。日本人選手の場合は海外の審判員となるわけですが、その時に、"心に打つもの" が審判に伝わらないとダメなんですね。5つのシンプルな動作だけですから。そのなかで全身全霊で挑んでいるわけですから、強い意志があれば伝わらない訳がないでしょう。




シンプルな動きだからこそ難しいですね。


基本動作は「気」「剣」「体」の一致活動だから、何れも不足してはいけません。
「体」とは身体の移動の事です。
「剣」とは手に持った得物の事です。
「気」とは気合いの気ですね。これらは常に一致していなければなりません。

次に「静」「動」の関係です。「静」があって瞬間「動」があり、「動」の中にもう既に「静」がある。それは「静中動(せいちゅうどう)」とも「動中静(どうちゅうせい)」と言います。

   更に言うと、限られた非常にシンプルな技の中に " 美 " が醸し出されてくるのですね。初めは言われた通りに動く、その次には軽快に動いてくる、その次には優雅で重厚な動きになりますが、更に卓越すると幽玄さが " 美 " として伝わってくる。初めは迫力が必要ですが、それがだんだん内に秘められて行きます。とげとげしさが無くなって演武が丸くなってきます。と言うことは、人間が円くなって来ているのですね。心が丸くなってくる。そうすると引き込まれます。能を見ていると、それ程の気迫は感じませんが、 " 美 " が有る、それと同じです。




奥が深いのですね。
どういう所を心掛ければ良いのでしょう?


技術的にはぎらぎらした雰囲気を努めて止め、あたかも遠山を見るが如く目は半眼、心穏やかに肩の力を抜き、四肢を柔らかく、気力を内に秘めるよう努める。そうする事でだんだん雰囲気も穏やかになり、「気」「剣」「体」も至極柔らかくなるのが周囲に伝播します。

   他に威圧感とか不快感などは与えないまろやかな演武を目指して欲しいと思います。



有り難うございました!
今回のインタビュー内容を是非、御参考にして戴きたいと思います。 次回、会長のインタビューもお楽しみに!

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